
37歳になったアルメニア人が、キャリアを1年延ばす決断を下した。だがその背中を押したのは、監督からの出場保証でも、クラブからの厚遇でもない。ガゼッタ・デロ・スポルトの独占インタビューで彼が語ったのは、契約に安全網を求めなかった男の理屈と、二度届かなかったビッグイヤーへの、まだ枯れていない渇き。
[[ヘンリク・ムヒタリアン]](Henrikh Mkhitaryan)が、2026年8月6日付のガゼッタ・デロ・スポルト紙のロングインタビューに応じた。パースでのプレシーズン中に行われたもので、契約延長の経緯、[[クリスティアン・キブ]](Cristian Chivu)との関係、若手への評価、そして自身の引退時期にまで踏み込んだ内容になっている。
最大の論点は、延長交渉の中身だ。1989年生まれの彼は、新シーズンにチーム最年長として臨む。通常であれば代理人が出場機会の保証を求める局面だが、ムヒタリアンはそれを「求めなかった」と明言した。理由は彼自身の言葉で語られている——ピッチで示すのが先であり、保証を先に受け取るのは筋が通らない、と。
もう一つ、記事の温度を上げているのが最終盤のやり取りだ。「引退に向けて何が足りないか」と問われた彼は、迷いなくチャンピオンズリーグを挙げた。二度決勝の舞台に立ち、二度とも敗れている男が、37歳になってなお同じ場所を見ている。
原文: "Non ho ricevuto alcuna garanzia: non sarebbe stato neanche giusto, perché devo far vedere io sul campo se merito un posto in squadra oppure no."
訳: 「保証は一切もらっていない。もらうべきでもなかった。チームに残る価値があるかどうかは、僕がピッチで見せるべきものだから」
原文: "La Champions, ecco. Vorrei vincere la Champions. Ci sono andato vicino due volte, magari prima o poi ci riesco."
訳: 「チャンピオンズリーグだ。あれを勝ちたい。二度、あと一歩まで行った。いつか届くかもしれない」
ベテランの契約延長で最も揉めるのは金額ではなく、出場機会の扱いだ。序列を確約すれば監督の手足が縛られ、確約しなければ選手側が別のクラブを探す。この綱引きを、ムヒタリアン本人が最初から放棄した形になる。
インテルにとっての実利は小さくない。中盤にはアレクサンダル・スタンコビッチが復帰し、[[ヤニス・マッソリン]]が正式合流、さらに[[カーティス・ジョーンズ]]の獲得交渉が続いている。ここで「最年長に一定の出場時間を約束済み」という制約が加わっていたら、補強の設計そのものが変わっていたと考えられる。逆に言えば、彼が保証を求めなかったからこそ、フロントは中盤を動かす余地を確保できている。
もっとも、これを美談だけで処理するのは早い。保証がないということは、序列が下がった瞬間に本人が不満を抱えるリスクも同時に残るということでもある。1年契約という短さは、その火種が長引かない設計にもなっている。
インタビューで彼は、今季の目標としてスーパーコッパを含む4つのタイトルを挙げた。前年のスクデットとコッパ・イタリアの二冠を「もう獲った」ものとして処理し、視線を先に移している。
この発言の重みは、ローテーション要員としての自己認識と切り離せない。4戦線を戦うということは、必然的に中盤の総稼働量が跳ね上がるということだ。[[ニコロ・バレッラ]]と[[ハカン・チャルハノール]]を全試合フル稼働させられない以上、経験値のある3枚目、4枚目が必要になる。ムヒタリアンが自ら「4つ」と口にしたのは、そのポジションを引き受ける意思表示だと読むこともできる。
同時に、彼はスタンコビッチへの助言として「もっと速く」と述べている。中盤で時間を支配する感覚、いつ加速していつ減速するかという判断は、まさに彼が長年インテルで担ってきた役割そのものだ。後継者に自分の技術を言語化して渡そうとしている点は、単なる戦力以上の価値と言っていい。
2023年のイスタンブール、2025年のミュンヘン。インテルは二度チャンピオンズリーグ決勝に到達し、二度とも敗れている。ムヒタリアンはその両方をピッチで経験した数少ない一人だ。
「引退に何が足りないか」という問いへの答えがチャンピオンズリーグだったことは、彼のキャリアを知る者にとって意外ではない。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、ローマと渡り歩き、ヨーロッパリーグは制したが、大陸最高峰のトロフィーだけが手元にない。37歳の1年契約は、その一点のための延長だと解釈するのが自然だろう。
ネラッズーリの歴史には、最後の一年で伝説になった選手が何人もいる。ムヒタリアンがその系譜に加わるかどうかは、キブが彼にどれだけの舞台を用意するかにかかっている。そして本人は、その舞台を保証ではなくプレーで勝ち取ると宣言した。
保証を断ったベテランと、保証を出さなかった監督。この関係は、うまくいけば互いを鍛え、こじれれば静かに終わる。37歳の1年契約が、キャリアの余韻になるのか、それとも最後の一撃になるのか。答えは、来年の春に出る。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年8月6日
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