
十六年前、この男はトリプレーテという最大の手土産を携えてサンティアゴ・ベルナベウに乗り込んだ。二度目の今回、手にしていたものは何もない。それでもレアル・マドリードは彼を呼び戻した。開幕節の相手が、よりにもよって古巣インテル・ミラノであるという巡り合わせ。ジョゼ・モウリーニョ(José Mourinho)が自ら語った、復帰の舞台裏と現在の心境。
インテルのUEFAチャンピオンズリーグ2026-27リーグフェーズ初戦は、9月8日のレアル・マドリード戦。その前日、レアル・マドリードを率いるモウリーニョが番組『The UCL Show』に出演し、マドリード復帰の経緯と、明日対峙する古巣への評価を語った。FCInterNewsが日本時間9月7日午後(イタリア時間12時4分)にこの内容を伝えている。
モウリーニョによれば、話は昨シーズン終了時に届いた一本の連絡から始まった。クラブ側が投げかけたのは、それ自体がすでに答えを含んだ問いだったという。彼はその言葉に即答し、二度目のベルナベウ行きを決めた。
注目すべきは、彼自身が2010年と2026年の立場の違いを率直に認めていることだ。前回はインテルでトリプレーテを達成した直後、いわば欧州最高の指揮官として招かれた。今回は無冠のまま戻ってきた。それでも「クラブは自分の物語を知っている」という一点に、彼は誇りを見出している。
明日の相手であるインテルについては、教え子であるクリスティアン・キブ(Cristian Chivu)が率いるチームを「素晴らしい」と評価。さらに今季のリーグフェーズでインテルとローマの両方と当たる組み合わせにも触れ、自身がイタリアで過ごした年月への感慨を隠さなかった。
原文: "A fine stagione mi hanno contattato e mi hanno fatto una domanda che già da sola conteneva la risposta: 'Abbiamo bisogno di te'. E io risposi: 'Ok, allora se avete bisogno di me andiamo'."
訳: 「シーズン終了時に連絡があって、それ自体が答えを含んだ問いを投げかけられた。『君が必要だ』と。私はこう返した。『わかった、必要とされているなら行こう』」
原文: "Quando venni qui nel 2010, avevo vinto il Triplete con l'Inter. Questa volta, sono tornato senza aver vinto trofei prima; ma sono qui perché il club conosce la mia storia e questa è la cosa che mi ha scosso, ne sono orgoglioso."
訳: 「2010年にここへ来たときは、インテルでトリプレーテを勝ち取った直後だった。今回は、何も勝たないまま戻ってきた。それでもここにいるのは、クラブが私の物語を知っているからだ。それが胸を打った。誇りに思う」
原文: "L'Inter è una squadra fantastica, che migliora ogni anno."
訳: 「インテルは素晴らしいチームだ。毎年良くなっている」
この復帰劇の説明として、モウリーニョは契約条件にも編成方針にも一切触れていない。語ったのは「必要とされた」という一点だけである。これは彼の常套手段でもあり、同時に極めて有効な自己防衛でもあると考えられる。無冠での復帰という事実は、本来なら「なぜ彼なのか」という批判を招きやすい。それを「クラブが私の物語を知っている」と言い換えることで、実績の空白を経歴の厚みへと変換してしまった。
もっとも、この語りは本人の自己申告であり、フロレンティーノ・ペレス(Florentino Pérez)側がどう説明しているかは元記事では言及されていない。ベンフィカ時代についても「良い時間を過ごした」と肯定しつつ「レアルはレアルだ」と締めており、過去を否定しない身のこなしは以前より柔らかい。十六年という時間が、この男の口調をいくらか丸くした可能性はある。
「素晴らしいチーム」「毎年良くなっている」。この言葉を額面通りに受け取るのは、おそらく早計だろう。モウリーニョの試合前の賛辞は、相手を持ち上げることで自軍への期待値を下げる調整弁として機能してきた。レアル・マドリードは前節のリーガで盤石とは言えない内容だったと『Tuttosport』が伝えており、開幕節に古巣を迎えるという構図は、勝てば劇的、負ければ理由の立つ試合設定になっている。
一方で、賛辞そのものが完全な社交辞令とも言い切れない。インテルは開幕3連勝、ナポリ相手に0-2から3-2へ逆転して勝ち点9で首位ローマと並んでいる。教え子であるキブが、自分の下でトリプレーテを掴んだ選手であることも含め、モウリーニョにとってこの一戦が特別であることは疑いようがない。
イタリアの論説記者パオロ・コンド(Paolo Condò)は、この対戦を「トリプレーテから16年、円環が閉じる」と表現した。確かに象徴的ではある。2010年5月、インテルは欧州の頂点に立ち、その直後に指揮官はマドリードへ去った。十六年後、同じスタジアムで、同じ男が今度は敵将として古巣を迎える。
ただ、モウリーニョ自身の言葉はもっと即物的だ。「試合が始まれば、勝ち点3を奪うためのもう一人の対戦相手にすぎない」。二十年前に始めたサイクルを、彼はいまも一試合ずつ回している。感傷は語り手のものであって、当事者のものではないのかもしれない。インテルにとって重要なのは、その割り切りに対抗できるだけの冷徹さを、ベルナベウのピッチで持ち込めるかどうかだろう。
十六年前は勝者として招かれ、今回は物語を買われて戻ってきた。モウリーニョの二度目のベルナベウは、その落差ごと引き受けたところから始まっている。そして最初に立ちはだかるのが、彼を勝者にしたクラブだ。この皮肉を、誰が笑えるだろうか。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年9月7日
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