
アッピアーノ・ジェンティーレの練習場前で、背番号21の名前入りユニフォームが売られ始めていた。契約は3年プラス4年目のオプション、手取り年俸は約600万ユーロ。すべては整っていたはずだった。[[ローマ]]との首位攻防を翌日に控えた朝、『Gazzetta dello Sport』が掘り起こしたのは、インテルの近年史を書き換えていたかもしれない一件の不成立。
2026年9月18日の朝、『Gazzetta dello Sport』がローマ対インテルの前日企画として、両クラブの歴史が交差しかけた過去の移籍案件を振り返った。主役は[[パウロ・ディバラ]](Paulo Dybala)。ユヴェントスとの契約満了を控えたアルゼンチン人アタッカーを、[[ジュゼッペ・マロッタ]]が率いていた当時の[[インテル・ミラノ]]がフリーで引き抜く寸前まで進んでいた、という内容である。
同紙によれば、合意はほぼ最終形まで詰められていた。3年契約に4年目のオプションを付し、年俸は手取りで約600万ユーロ。アッピアーノ・ジェンティーレの練習場前に常時店を構える業者たちは、背番号21とディバラの名前をプリントしたインテルのユニフォームを実際に売り始めていたという。移籍が既定路線として受け止められていた度合いを、この一点がよく物語る。
だが婚礼は挙げられなかった。ディバラは[[ユヴェントス]]との契約が切れたのち、当時[[ジョゼ・モウリーニョ]]が指揮していた[[ローマ]]を新天地に選ぶ。ガゼッタはこの案件を、ライバルであるユヴェントスからトップクラスのフリーエージェントを奪うという「マロッタータ(マロッタ流の一手)」の典型として位置づけたうえで、今のローマにおけるディバラと[[マレン]]の連係ぶりを見れば、あの選択が誤りだったとは言えないと結んでいる。
原文: "Qualcuno aveva già 'disegnato' Paulo Dybala vestito di nerazzurro. (...) I commercianti che si piazzano abitualmente fuori da Appiano Gentile avevano persino cominciato a vendere le magliette dell'Inter con stampato il nome dell'argentino con tanto di numero 21. Sembrava fatta, effettivamente: Dybala all'Inter."
訳: 「すでに誰かが、ネラッズーリを着たパウロ・ディバラを『描いて』いた。(中略)アッピアーノ・ジェンティーレの外にいつも店を出す業者たちは、背番号21つきでアルゼンチン人の名前をプリントしたインテルのユニフォームを売り始めてすらいた。実際、決まったように見えていた。ディバラがインテルへ、と」
原文: "Chissà come sarebbe cambiata la storia, se l'argentino avesse accettato l'Inter e non la Roma."
訳: 「もしあのアルゼンチン人がローマではなくインテルを受け入れていたら、歴史はどう変わっていたのだろうか」
手取り600万ユーロという条件は、当時のインテルの給与構造のなかで軽い数字ではない。だが移籍金がゼロである以上、クラブが背負うのは人件費だけで済む。フリーエージェントの獲得が「マロッタータ」と呼ばれるのは、この構造を最大限に利用する巧みさゆえだ。しかも相手はユヴェントスである。コストをかけずに戦力を得るだけでなく、直接のライバルから看板選手を引き剥がすという副次効果まで計算に入っていたと考えられる。
裏を返せば、この案件が流れたことでインテルは相応の人件費を支払わずに済んだ、という読み方も成り立つ。オークツリー体制下で給与総額の抑制が繰り返し語られる現在の編成方針から遡って見れば、成立しなかったことがクラブの財務にとって不利益だったと断定するのは難しい。ガゼッタ自身、結果論としての是非には踏み込んでいない。
ガゼッタは、当時のインテルの攻撃陣を「すでに完成されていた」と表現している。ここが案件の性格を規定する部分だろう。ディバラは戦力の穴を埋めるための補強ではなく、質を上乗せするための贅沢な一手として構想されていたことになる。
その前提に立つと、交渉が最後に崩れた理由の一端も推察できる。序列が保証されない環境に、キャリアの分水嶺に立つアタッカーが飛び込む理由は乏しい。一方のローマは、彼を中心に据える設計図を提示できる立場にあった。元記事はディバラ側の判断理由を明示していないため断定はできないが、「完成された前線」という一語が示す環境差は、決断の背景として無視しにくい要素だと考えられる。
そして皮肉なことに、その選択の正しさを証明する場所が、翌日の舞台になる。ガゼッタは今のローマにおけるディバラとマレンの相性を挙げ、彼の判断は間違いではなかったと書いた。首位を分け合う2チームが直接対決するこのタイミングで、インテルのユニフォームを着たかもしれない男がジャッロロッシの10番として立つ構図は、それ自体がひとつの物語になっている。
歴史のifを語ることに意味があるとすれば、それは現在地を測るための物差しとしてだろう。ディバラを得られなかったインテルは、その後に自前の攻撃陣で結果を積み上げてきた。得たローマは、2年目を迎えた[[ジャンピエロ・ガスペリーニ]]の下でついに首位に並んだ。どちらの道も行き止まりではなかった、という事実のほうが、実現しなかった仮定よりも雄弁かもしれない。
売れ残った背番号21のユニフォームは、いまどこにあるのだろうか。アッピアーノの業者が刷ったあの名前は、土曜の夕方、オリンピコのジャッロロッシ側で歌われる。歴史が選ばなかった一手の答え合わせは、90分のなかにある。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年9月18日
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