
開幕戦の当日、7万人が押し寄せるスタジアムの未来が、まったく別の言語で語られていた。ミラノ市に提出された一通の報告書。そこには2032年に完成するはずの新スタジアムの評価額と、2つのクラブが最終的に手にする差額が、小数点以下まで並んでいる。祝祭の裏側で進む、もうひとつのプロジェクト。
2026年8月22日付のコリエレ・デラ・セラが、[[インテル・ミラノ]]と[[ACミラン]]がミラノ市に提出した「経済的実現可能性報告書(Relazione economica di fattibilità)」の中身を報じた。FCInterNewsが同日11時49分に転載している。
報告書によれば、2つのクラブは新スタジアムが2032年に完成した時点での価値を21億4900万ユーロと見積もっている。新スタジアムの周囲にはホテルやオフィスが建設される計画で、そちらの延床面積は9万8000平方メートル。スタジアム本体の6万4000平方メートルと合わせると、開発区域の総面積は16万2000平方メートルに及ぶ。
肝心の収支はこうだ。スタジアムを建て、周辺の建物を売却し、すべての費用を差し引いた結果として、2クラブには2億6500万ユーロの売却益(plusvalenza)が残ると試算されている。総支出は23億ユーロ、完成した事業全体の価値は25億6500万ユーロという内訳である。ただしコリエレ・デラ・セラ自身が、計画の規模が大きすぎるため工事期間中に多くの項目が変動しうると但し書きを添えている。
原文: "Una volta costruito l'impianto, venduti i nuovi edifici e sottratti tutti i costi, l'operazione immobiliare dovrebbe garantire alle due società una plusvalenza di 265 milioni di euro. Dati soggetti a cambiamenti perché il progetto è talmente grande che molte voci potrebbero cambiare durante i lavori."
訳: 「施設を建設し、新たな建物を売却し、すべてのコストを差し引いた時点で、この不動産事業は2つのクラブに2億6500万ユーロの売却益をもたらすはずである。ただしこの数字は変動しうる。計画があまりに巨大であるため、工事の進行中に多くの項目が変わる可能性があるからだ」
この報告書で最も目を引くのは、実は総額でも売却益でもない。金融費用と保証コストの3億8200万ユーロである。事業全体の約17%が、コンクリートにも鉄骨にもならない金の値段に消える計算になる。スタジアム本体の建設費が約7億800万ユーロであることを考えると、その半分以上の額を「借りるための費用」が占めている。
この構造は、両クラブにとって工期の遅延が単なるスケジュールの問題ではないことを意味する。2032年という完成目標が後ろにずれれば、金利負担の総額はほぼ自動的に膨らむと考えられる。逆に言えば、報告書が示す2億6500万ユーロという売却益は、想定通りに進んだ場合の数字だと理解しておく必要があるだろう。
元記事では、2億6500万ユーロが[[インテル・ミラノ]]と[[ACミラン]]の間でどう配分されるのかについては言及されていない。プロジェクトの持ち分構成や、それぞれのクラブがいつの決算に計上できるのかも同様である。
ただ、インテル側の文脈で言えば、この金額の意味は小さくない。オークトリー体制下のインテルは、この夏も主力を切り売りせずに補強を進めた。その資金繰りを支えているのはチャンピオンズリーグの収入と商業契約であり、恒常的な現金創出源としてのスタジアムはまだ手元にない。仮に2032年に売却益が実現するなら、それは単発の利益であると同時に、以後の入場料・ホスピタリティ収入の起点にもなる。もっとも、これは6年後の話であり、現在の編成判断に直接響く性質のものではないと見るのが妥当だろう。
報告書には、解体と廃棄処分に1億1500万ユーロが計上されている。その主対象が、いま7万人を飲み込もうとしている「サッカーの殿堂(Scala del Calcio)」であることは、この日の空気とあまりに対照的だ。
この数字は感傷ではなく、単なる事業コストの一項目として並んでいる。だがインテルにとってジュゼッペ・メアッツァは、1926年から続く歴史の大半が刻まれた場所でもある。取り壊しの費用が事業計画書に金額として現れた以上、それは抽象的な議論の段階を過ぎたということでもあるだろう。今季の開幕戦が「新しい何かの始まり」であると同時に「終わりのカウントダウンの一部」でもあることを、この1億1500万ユーロは静かに示している。
7万人の歓声と、報告書の小数点。同じスタジアムを語りながら、この2つはまるで別々の建物の話をしているように聞こえる。だが2032年に立っているのは、どちらの言葉が作った建物なのだろうか。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年8月22日
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