
開幕を数時間後に控えたミラノで、インテルを本命に推す声が一斉に鳴った。かつての帝王は「散歩になるはずだ」と言い、名将は「イタリアに対抗馬はいない」と断じ、ライバルの指揮官までが「差はある」と認めた。そのお祭りじみた合唱のなかで、ガゼッタ・デロ・スポルトだけが紙面の隅に小さな数字を置いている。2020年。イタリア王者が連覇に失敗し続けている、その起点となった年。
2026年8月22日、セリエA第1節。インテルは18時30分(現地時間)からジュゼッペ・メアッツァでモンツァを迎える。改修を経たスタジアムは7万人超のソールドアウト、[[クリスティアン・キブ]]にとっては王者の指揮官としての初戦となる。この日の朝、イタリアの各紙とテレビは揃って同じ結論を並べた。インテルが本命である、と。
ガゼッタ・デロ・スポルトは開幕特集として「10の質問」を掲載し、優勝候補の筆頭にインテルを挙げた。根拠として同紙が持ち出したのは、想定される「二軍」のリストである。[[イヴァン・プロヴェデル]]、[[バンジャマン・パヴァール]]、[[ヤン・ビセック]]、[[カルロス・アウグスト]]、[[アンディ・ディウフ]]、[[ペタル・スチッチ]]、[[カーティス・ジョーンズ]]、[[ヘンリク・ムヒタリアン]]、[[ルイス・エンヒキ]]、[[ピオ・エスポージト]]、[[アンジュ=ヨアン・ボニー]]。これがベンチ側の顔ぶれだという主張だ。
一方、外部の証言者たちはより率直だった。前会長のマッシモ・モラッティはラジオ局Radio Radioで、3人のイングランド人補強を挙げたうえで今季を「散歩」と表現している。テレビ解説の側でも、マッシモ・アンブロジーニが「3人のイングランド勢で他クラブとの差は広がった」と語り、ファビオ・カペッロは「イタリアに敵はいない、チャンピオンズは準々決勝が最低ライン」と要求水準を引き上げた。対戦相手側からも、ACミランのルベン・アモリムが「我々とインテルには差がある」と述べ、ユヴェントスのルチアーノ・スパレッティは「どれだけ縮まったかは分からない」と言葉を濁している。
原文: "Il mercato non ha accorciato la distanza delle concorrenti. Anzi. L'Inter ha messo tre leoni inglesi (Spence, Stones, Jones). Questo sulla carta. Ma si gioca sull'erba. L'eccessiva sicurezza può indurre distrazioni, soprattutto se il bersaglio grosso diventa la Champions League. Gestire una ventina di titolari per Cristian Chivu non sarà uno scherzo. È dal 2020 (la Juve) che la squadra campione d'Italia non si conferma"
訳: 「移籍市場は追走勢との距離を縮めなかった。むしろ逆だ。インテルは3頭のイングランドのライオン(スペンス、ストーンズ、ジョーンズ)を並べた。ただしこれは紙の上の話で、試合は芝の上で行われる。過剰な自信は集中を欠かせる。とりわけ大本命がチャンピオンズリーグになった場合はなおさらだ。20人前後の主力を回すことは、クリスティアン・キブにとって冗談では済まない。イタリア王者が連覇できていないのは2020年のユヴェントス以来である」
原文: "L'Inter era già forte, poi ha preso i tre inglesi che sono tutti di qualità. Se si inseriscono bene e se l'Inter avrà fortuna, dovrebbe essere una passeggiata quest'anno"
訳: 「インテルはもともと強かった。そこへ3人のイングランド人が来て、いずれも質が高い。彼らがうまく馴染み、インテルに運もあれば、今年は散歩になるはずだ」
ガゼッタが列挙した「二軍」を、額面通りに受け取るかどうかは判断が分かれるだろう。[[イヴァン・プロヴェデル]]も[[カーティス・ジョーンズ]]も、この夏に加わったばかりで公式戦の実績はまだない。[[ルイス・エンヒキ]]に至っては同じ日に「放出候補として唯一残った選手」と報じられており、そのリストに名前を置くこと自体がやや強引にも映る。
それでも、この列挙が示す事実がひとつある。夏の市場でインテルは主力を削らずに層だけを足した、という点だ。オークトリー体制下で「本人の意思によらない主力放出はなかった」と伝えられていることを踏まえれば、[[ジョン・ストーンズ]]、[[ジェド・スペンス]]、[[カーティス・ジョーンズ]]の3人は純増に近い。前線で1枚、いわゆる「第5のFW」を市場最終盤に探しているという報道が続いていることを考えると、クラブ自身もこの陣容をまだ完成形とは見ていない可能性がある。
ガゼッタの警告のうち、最も実務的なのは「20人前後の主力を回すのは冗談では済まない」という一節だ。昨季のキブは、限られた選択肢のなかで序列を素早く固めることで結果を出した側面がある。だが今季は状況が反転する。使える駒が増えれば、外れる選手の不満をどう処理するかという別種の負荷が生まれるからだ。
アルトベッリが同日に語った「今季は60試合を戦う、全員に出番がある」という見立ては、裏を返せば60試合を戦えるだけの回転を作らなければ持たない、という意味でもある。開幕戦でジョーンズとスペンスがスタンドから観戦する見込みだと伝えられているのは、単なる調整の遅れというより、序列づくりを急がない姿勢の表れと読むこともできるだろう。
面白いのは、称賛の合唱に加わった証言者たちの誰ひとりとして「連覇の難しさ」に触れていないことだ。モラッティは「運があれば」と条件を添え、カペッロは目線を欧州に移し、アンブロジーニは差の拡大を語った。国内連覇そのものの困難さを数字で示したのは、この日ガゼッタだけである。
2020年のユヴェントスを最後に、イタリア王者は6シーズン連続で翌季のスクデットを取り逃している。ミラン、インテル、ナポリ、そして再びインテルと、王座は毎年のように移った。この数字が偶然の連続なのか、それとも欧州カップ戦との併走が国内での消耗を強いる構造的な問題なのかは、今季のインテルが答えを出すことになる。カペッロが「準々決勝が最低ライン」と要求したチャンピオンズと、6年ぶりの連覇。両立できると断言できる材料は、現時点ではまだ揃っていないと言うべきだろう。
祝祭の日に、数字はいつも無愛想だ。モラッティの言う「散歩」と、ガゼッタの言う「2020年以来」は、同じチームについての同じ日の記述でありながら、まったく別の方向を指している。どちらが正しかったのかは、来年5月のこの街が教えてくれる。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年8月22日
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