
ジョン・ストーンズを移籍金ゼロで確保したことで、インテルの金庫にはまだ手つかずの4000万ユーロが残っている。守備の穴を安く塞いだ夏、その札束はどこへ向かうのか。7月29日朝のトリノ発の報道が示したのは、クリスティアン・ロメロの名前ではなかった。クリスティアン・キブが去年から夢に見続けている、リヴァプールの背番号の話だ。
29日付のTuttosportは、インテルの夏の資金計画を1本の線で整理してみせた。ストーンズの獲得はあくまで守備の応急処置であり、市場の本丸は別にあるという読み解きだ。
出発点はバンジャマン・パヴァール(Benjamin Pavard)の去就である。フランス人DFは現在グループに合流して順調に調整を積み、再統合されたように見えるが、依然として市場に置かれたままだ。1200万から1500万ユーロのオファーが届けばインテルは受け入れる。年俸500万ユーロの負担から解放されるという理由だけでも、クラブにとっては十分に合理的な取引になる。
その場合の後任として想定されているのは、大物ではなく安価な即戦力だ。Tuttosportは「2022年のアチェルビのような、ただしもっと若いプロフィール」と表現している。つまり守備の残り1枠には大金を落とさない。そして温存された4000万ユーロの予算と、ダヴィデ・フラッテージ、クリスティアン・アスラニ、エベネゼル・アキンサンミロの売却で見込まれる収入は、右サイドと中盤の2箇所に振り向けられる。中盤の名前は1つしかない。カーティス・ジョーンズ(Curtis Jones)である。
なおロメロについては、この日Repubblicaが「時間という要因が取引を可能にするかもしれない」と伝えており、Corriere dello Sportも「ロメロとジョーンズ、大物が誰も来ないとは考えにくい」との見方を示している。交渉が消えたわけではない。
原文: "Il costo? Il Liverpool chiede sempre 40 milioni, ora, ad agosto inoltrato..."
訳: 「値段か。リヴァプールは相変わらず4000万ユーロを要求している。今は、な。8月も深まれば……」
原文: "...andrebbe su un profilo low-cost, come l'Acerbi del 2022, ma più giovane."
訳: 「(パヴァールが去れば)低コストのプロフィールに向かうだろう。2022年のアチェルビのような、ただしもっと若い選手だ」
この夏のインテルの動きを振り返ると、ストーンズの獲得は補強である以上に、資金を守るための手続きだったことが見えてくる。フランチェスコ・アチェルビ、ステファン・デ・フライ、マッテオ・ダルミアンが同時に去った守備陣に、市場価格で埋め合わせをしていたら4000万ユーロは軽く消えていた。ロメロに5000万ユーロを投じていたら、右サイドも中盤も手つかずのまま8月を終えていた可能性が高い。
ピエロ・アウジリオ(Piero Ausilio)はロメロとの交渉を切らないまま、日曜から月曜にかけてストーンズへ舵を切った。この二段構えは、交渉術としては教科書的だ。守備の最低限を確保したことで、ロメロ側に対する「急ぐ理由」が消えた。要求額が下がるのを待てる立場に回ったとも言える。もっともそれは同時に、バルセロナが先に動けば全部持っていかれるリスクを引き受けることでもある。
キブが求めているのは、単なる中盤の頭数ではないと考えられる。ジョーンズは1月の冬市場でもインテルが動いた相手で、今回で二度目のアプローチにあたる。3-5-2の中盤3枚は運動量と縦の推進力を同時に要求される場所であり、25歳という年齢とプレミアリーグでの経験値を併せ持つ選手は、この夏の市場ではそれほど多くない。
障害はリヴァプールの姿勢だ。新監督イラオラは本人を高く評価していると公言しており、クラブは4000万ユーロという評価額を崩していない。逆に言えば、フラッテージ、アスラニ、アキンサンミロの3人を予定通りに現金化できるかどうかが、この移籍の成否をほぼ決める。インテルの中盤は入口と出口が連動する構造になっており、出て行く順番が狂えば入ってくる話も止まる。この夏、フラッテージの代理人ベッペ・リーゾ(Beppe Riso)がクラブとの直接会談を予告したのは、その意味で単独の話ではない。
Tuttosportの記事に繰り返し出てくるのが「ad agosto inoltrato(8月も深まってから)」という言い回しだ。価格が下がるのを待つ。売り手が焦るのを待つ。理屈としては正しい。マロッタ体制のインテルが何度も成功させてきた手口でもある。
ただし今季のセリエAは8月22日に開幕する。予定通りモンツァ戦を迎えるなら、大物が合流するのはリーグ戦がすでに走り出した後になる。戦術的な熟成期間はほぼゼロだ。しかもラウタロ・マルティネスとマルクス・テュラムはW杯を戦った帰りで、合流自体が8月10日以降になる。キブは開幕を「未完成のチーム」で迎える覚悟をしているのか、それとも編成が間に合うと踏んでいるのか。この夏最大の不確定要素は、選手の名前ではなく時間の側にあるのかもしれない。
ストーンズは安く、速く、確実だった。だからこそ残った4000万ユーロには、逃げ道がない。右サイドに納得できる名前はまだなく、ジョーンズの値札は下がっていない。8月を待つという選択は、賢明な計算か、それとも先延ばしか。答えが出るのは、開幕のホイッスルが鳴った後だろう。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年7月29日
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