
ワールドカップで株を上げた選手を、なぜ手放そうとするのか。イングランド代表としてトマス・トゥヘル体制下で存在感を示したジェド・スペンスが、この夏インテル行きに向けて動き出している。鍵を握るのはトッテナムの新指揮官ロベルト・デ・ゼルビ。ペドロ・ポッロを軸とした新布陣が、スペンスの立ち位置を静かに変えつつある——
スペンスはワールドカップでのパフォーマンスによって評価を大きく押し上げた選手の一人だ。それにもかかわらずトッテナムが放出に前向きな姿勢を崩さない背景には、2026年3月に就任したロベルト・デ・ゼルビの戦術構想がある。ビルドアップ局面で中に絞ってプレーメイクに関与できるポッロが右サイドの不動のレギュラーとなったことで、スペンスの立ち位置は相対的に狭まっているとみられる。
イタリア側の報道によれば、インテルとスペンス本人との間にはすでに個人レベルでの大枠合意が存在するとされ、数時間以内に両クラブの新たな接触が予定されているという。移籍金についてはトッテナム側が3500万〜5000万ユーロのレンジを求めているのに対し、インテルは3500万ユーロを持続可能なラインと位置づけており、この開きの解消が来週にも決着を迎える焦点になるとみられる。
交渉が不調に終わった場合の代替プランも生きている。ゲラ・ドゥエやナウエル・モリーナといった名前が引き続きインテルの候補リストに残っているとされ、右WBの後任探しはスペンス一本に絞られているわけではない。
トッテナムの希望額とインテルの許容ラインの間には、依然として1500万ユーロ規模の開きが残っている。それでもインテルが早期決着を急ぐ背景には、代替候補として名前が挙がるゲラ・ドゥエやナウエル・モリーナとの交渉を並行して進めるよりも、本人がすでに個人合意に達しているスペンス獲得を優先する方が、時間的なコストを抑えられるという計算があると考えられる。オークツリー体制下での予算規律を保ちながらも、ポジション不在という機能不全のリスクを長引かせない判断が優先されているのだろう。
デ・ゼルビが志向するビルドアップ型のシステムでは、ポッロのように中に絞ってプレーメイクに関与できる選手が優先される傾向にある。一方でスペンスは、3バック化した際にセンターバックへとスライドする汎用性を評価される起用法が想定されているとされ、これは裏を返せば、固定されたレギュラーの座ではなく便利屋としての役割を意味する。キブ監督の3-5-2で純粋な右WBとしての起用が見込めるインテル移籍は、スペンス自身のキャリア設計としても理にかなっていると言えそうだ。
スペンスにとってセリエAは初めての舞台ではない。かつてジェノアへのレンタルでイタリアサッカーを経験しており、その土地勘と言語面での適応力は、他の移籍候補にはない強みになりうると考えられる。ワールドカップでの評価上昇という追い風と、デ・ゼルビ新体制における立ち位置の変化という向かい風が同時に吹く中、スペンスが選ぶのはかつて足跡を残した国への回帰という、意外にも筋の通った選択になりつつあるように見える。
評価は上がったのに、居場所は狭くなった。デ・ゼルビの新布陣が生んだこの矛盾こそが、スペンスをミラノへと押し出す最大の推進力になっているのかもしれない。数時間以内とされる次の接触が、この夏の行方を決めることになりそうだ。
スポーツ×ITの会社でバックエンドエンジニア兼マネージャーとして勤務。インテル関連の情報を中心に発信しています。
最終更新: 2026年7月21日
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