いま欧州サッカーの最前線で起きていること(2025-26シーズン)
2026年10月4日時点の内容です
ここ10年ほどの欧州サッカーは、後方から丁寧につなぐポゼッションが「正解」とされてきました。ところが2025-26シーズンは、その前提が少し揺らいだ一年でした。プレミアリーグではパスの本数が減り、ロングスローとコーナーキックからのゴールが目に見えて増えています。チャンピオンズリーグでは相手を1人ずつ捕まえる前線プレスと、それを越えるための縦への速さがせめぎ合いました。ここでは信頼できる媒体の分析をもとに、いまトップレベルで起きている変化を7つに絞って紹介します。
1. パスを減らし、前へ急ぐ。直接的なプレーへの揺り戻し
Opta系のデータサイト The Analyst によると、2025-26シーズンのプレミアリーグは開幕50試合時点で1試合平均849.1本と、2010-11シーズン以来の少ないパス数でした。マンチェスター・シティでさえ、1回の攻撃あたりのパス数が5.12本から3.97本に減っています。ただしシーズン半ばにはシティとリヴァプールがパス数を再び増やしており、全チームが一斉にポゼッションを捨てたわけではありません。チャンピオンズリーグでも、パリ・サンジェルマン(PSG)はアンフィールドでリヴァプールの激しいプレスを受けると後半はGKサフォノフから一気に前線へ送る形に切り替え、自陣でのつなぎを捨ててプレスをかわしました。セリエAでは、インテルのキヴがチームを「よりアグレッシブで、より直接的に」変えたとリーグ公式サイトが評しています。
関連する用語: トランジション(攻守の切り替え)・GKを使ったビルドアップ
- 出典: The Analyst (Opta)「More Long Balls, Fewer High Turnovers, and Set-Piece Reliance: Are Premier League Teams Going More Direct?」(別タブで開きます)
- 出典: The Analyst (Opta)「Premier League Tactical Trends: How Passing, Set-Pieces, Long Throws Have Changed in 2025-26」(別タブで開きます)
- 出典: UEFA「Champions League Performance Insights: Paris Saint-Germain find a way to win」(別タブで開きます)
- 出典: セリエA公式サイト「Chivu, the man who shaped Inter’s destiny」(別タブで開きます)
2. ロングスローの復活
10年以上ほとんど見かけなかったロングスローが、プレミアリーグで一気に戻ってきました。The Analyst の集計では、ペナルティエリアへ20m以上投げ込むロングスローは1試合平均4.0本と、記録のある中で過去最多だったシーズンの倍以上に達しています。旗振り役はブレントフォードで、右サイドバックのマイケル・カヨデが投げる低く速いボールは、リヴァプール戦でも開始5分の先制点につながりました。スローインの専門コーチとして知られるトーマス・グロンネマルクは、Sky Sportsで「変わった一番の理由は、効くことがデータで分かるからだ」(原文: "The main reason for the change is because we can see from the data that it works.")と、データの裏付けを流行の理由に挙げています。一方で、1回のスローインにかかる時間が延び、試合が止まっている時間が増えたことも指摘されています。
- 出典: The Analyst (Opta)「Monster Throw-In Delays and Less Football, But Better Competition: Is Set-Piece Craze Good for the Premier League?」(別タブで開きます)
- 出典: Sky Sports「Long throws back in fashion: Thomas Tuchel says it is back and throw-in expert Thomas Gronnemark explains why」(別タブで開きます)
- 出典: ESPN「Brentford star Michael Kayode's long throws are becoming a real Premier League problem」(別タブで開きます)
3. セットプレーは「専門職」の領域に
2025-26シーズンのプレミアリーグでは、シーズン半ばの時点で全ゴールの28.3%がPKを除くセットプレーから生まれていました。Sky Sportsによれば20クラブ中15クラブがセットプレー専門のコーチを置き、ブレントフォードはそのセットプレーコーチだったキース・アンドリュースを監督に昇格させています。象徴がアーセナルで、コーナーキックからの得点はシーズン17点目でプレミアリーグの最多記録を更新しました。ESPNは、セットプレーでの得失点差がプラス13とリーグで群を抜いていた点を挙げています。欧州の舞台でも、ヨーロッパリーグを制したアストン・ヴィラのウナイ・エメリについて、UEFAの技術レポートが「試合を変えるセットプレー」を勝因の一つに挙げました。
関連する用語: オーバーロード
- 出典: Sky Sports「Arsenal and Liverpool rank as best and worst from set-pieces as Premier League clubs embrace trend」(別タブで開きます)
- 出典: The Analyst (Opta)「In a Premier League Season Dominated by Set-Pieces, Corners Could Decide the Title Race and Relegation Battle」(別タブで開きます)
- 出典: ESPN「Premier League without set-piece goals: What would the table look like?」(別タブで開きます)
- 出典: UEFA「Read the official 2025/26 technical reports」(別タブで開きます)
4. 相手を1人ずつ捕まえる前線プレス
ゾーンで構えて待つのではなく、相手の選手一人ひとりに担当をつけて高い位置から追いかける守り方が、トップレベルで当たり前になってきました。チャンピオンズリーグのリーグフェーズ最終節では、PSVとバイエルンが互いにマンツーマンで噛み合い、PSVのペーター・ボス監督は「向こうは1対1で来たし、こちらもまったく同じことをした」(原文: "They went one-on-one with us, and we did exactly the same with them.")と振り返っています。プレミアリーグでも、トッテナムは3-5-2の選手をアーセナルの選手にそのまま当て、リヴァプールは中盤がシティのダブルボランチに密着しました。対抗策もはっきりしてきています。アーセナルは中盤の選手が中央から離れて相手を引き出し、空いた内側のレーンを使いました。シティは前線の選手を中盤に下ろして4-2-2-2に形を変え、中央の人数を増やしています。UEFAの技術オブザーバーを務めたエリク・テン・ハフは、マンツーマン攻略には縦へのパスと「3人目」の関わりが鍵だと指摘しています。
5. つなぐGKから、蹴り分けるGKへ
マンツーマンのプレスが広がると、後方で数的優位を作ってつなぐ従来のビルドアップは難しくなります。そこで目立ったのが、GKが迷わず長いボールを選ぶ場面です。プレミアリーグでは2025-26シーズン序盤、相手陣内まで届くゴールキックが48.4%に増えました。チャンピオンズリーグでは、PSVの密着プレスを受けたバイエルンのGKヨナス・ウルビヒが、パスの63%をロングボールにしています。それまでの7試合では37%でした。シティのジャンルイジ・ドンナルンマも、リヴァプールのFWがプレスを強めた後半は長く蹴る回数を増やしました。GKに求められるのは「足元がうまい」だけでなく、つなぐか蹴るかを状況で選ぶ判断力になりつつあります。
関連する用語: GKを使ったビルドアップ・マンツーマン守備
- 出典: The Analyst (Opta)「More Long Balls, Fewer High Turnovers, and Set-Piece Reliance: Are Premier League Teams Going More Direct?」(別タブで開きます)
- 出典: UEFA「Champions League Performance Insights: Finding solutions to man-marking」(別タブで開きます)
- 出典: The Coaches' Voice「Liverpool 1 Manchester City 2: tactical analysis」(別タブで開きます)
6. ポジションの境界が溶ける。回転するPSGと万能型の選手たち
2シーズン続けてチャンピオンズリーグを制したPSGは、決勝でアーセナルをPK戦の末に下しました。ESPNはルイス・エンリケのチームを、ボールを持つ選手に自由を与えつつ、その自由を使う時間と場所は決めている4-3-3だと評しています。UEFAの技術オブザーバー、アンジェ・ポステコグルーも、PSGの強みはポジションを入れ替える「ローテーション」で主導権を握ることだと語りました。ルイス・エンリケは左サイドバックのヌーノ・メンデスをウイングに、センターバックのルーカス・ベラルドを中盤に置いた試合もあり、「夢は、どこでもプレーできる選手を20人そろえることだ」(原文: "My dream is to have 20 players who can play everywhere.")とまで話しています。バイエルンのハリー・ケインが中盤まで下りてから遅れてゴール前に入る動きや、アーセナルのデクラン・ライスがアンカーからセンターバックまでこなす姿も同じ流れです。スペイン2部ではラシン・サンタンデールが、決まった立ち位置より選手同士の関係を重んじる「リレーショナル」なやり方で注目を集めました。
関連する用語: ポジショナルプレー・リレーショナルプレー・偽サイドバック(インバーテッド・フルバック)
- 出典: ESPN「PSG rule Champions League in a way that other clubs can only hope to replicate」(別タブで開きます)
- 出典: UEFA「Champions League Performance Insights: Paris Saint-Germain find a way to win」(別タブで開きます)
- 出典: Sky Sports「Nuno Mendes, Dominik Szoboszlai, Harry Kane and Nico O'Reilly among players showing versatility is football's new superpower as game evolves」(別タブで開きます)
- 出典: Sky Sports「Racing Santander's relationist tactics under Jose Alberto defy conventions but could win promotion to LaLiga in Spain」(別タブで開きます)
7. セリエAでは、キヴのインテルが高いラインと縦の速さで頂点に
シモーネ・インザーギの後を継いだクリスティアン・キヴは、就任1年目でスクデットを獲得しました。インテル公式サイトは、3-5-2を土台にしながらプレーがより縦に速くなり、絶え間ないプレスと非常に高い最終ラインが特徴になったと振り返っています。セリエA公式サイトによれば、キヴは最終ラインを押し上げて高い位置でボールを奪うことを重視し、アカンジを3バックの中央、ビセックをその外側に置いて高いラインを支えさせました。リーグ戦38試合で89得点を挙げ、そのうち29点がセットプレーからで、コーナーキックからの18得点は2004-05シーズン以降の記録を塗り替えています。2026-27シーズンの開幕前、キヴは「一つの決まった形にこだわったことは一度もない」(原文: "We never really stuck to one fixed shape.")と話し、相手に合わせて守り方も攻撃の組み立ても変えてきたことを強調しました。
まとめ
2025-26シーズンをひと言でまとめるなら、「美しくつなぐ」一本やりから「勝てる手段は何でも使う」方向への揺り戻しです。とはいえ、シティやPSGのようにボールを持つ力を捨てずに直接的な手段も加えたチームが結果を出しており、ポゼッションが終わったわけではありません。マンツーマンのプレスが広がったからこそ縦に速く蹴るGKやロングスローが生き、それに対抗するために選手はポジションを越えて動くようになりました。戦術ボードで、相手をマンツーマンで捕まえる配置と、それを一本のロングボールで越える形を並べてみると、この1年の攻防がよく見えてきます。







